三千界のアバター

廃校舎と屍の賞金稼ぎ

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廃校舎と屍の賞金稼ぎ
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 そこは、『生気』が欠落した場所だった。公立中学校の周りで動くものあれど、その全てが屍と化した『元』人間だ。平均して背が低めの彼等は、陸と 黒中 印(しるべ)、特異者達の姿を認めて校門付近に集まってくる。どの顔にも、自我は宿っていない。『無』である筈なのに、明らかに自分達を害しようと手を伸ばしてくる屍鬼達に、エフカ・アーニャは一歩、後ずさった。
「ひっ……」
 武器を持つ手が、僅かに震える。地球で大ヒットした、ホラーゲームの中に迷い込んだようだ。その手のゲームは苦手で、エフカはプレイしたことがないのだが。
 ゾンビってどうやって倒すんだっけ、とやったこともないゲームの画面を思い起こそうとしていると、1匹の犬が校門に向けて飛び出していった。鷹屋敷 千里の鉄犬だ。鉄犬の体当たりを受けてよろけた屍鬼を、片手剣『The Bisecter』を手にした遠近 千羽矢が倒していく。家族の元へ送り届ける事になるだろう体だ。出来るだけ傷つけたくはない。斬撃の跡を一つ残した屍鬼は、糸が切れたようにその場にくずおれる。
「行こう……相棒……」
「ああ。黒漆の双壁・『蒼華』、水城 頼斗……推して参る!」
「……黒漆の双壁・『緋炎』。遠近 千羽矢。……推して、参る……!」
 千羽矢と水城 頼斗は、校門前に留まることなく校内へと駆けていく。千里も銀槍で屍鬼の急所を貫きつつ、彼と頼斗に続いた。銀槍は、アブラハム偽書を開き千里が錬成したものだ。3人の後を、黒山 羊が追いかける。
「ちー、らいと、僕も行くよ!」
「ヒャッハァーーッ!!」
 続いて、戦闘用バイクの後ろにthe・Breakthroughを乗せたエクティア・ユナイルが爆走していく。校庭には屍鬼の姿が無かった。何体かの屍鬼を撥ね飛ばしたエクティアは、速度を緩めることなく昇降口に突っ込んでいく。
 何かが派手に衝突するような音が、校門の外まで聞こえてくる。
「「「……………………」」」
 皆と同じようにしばし昇降口側に視線を送り、それから乱藤 陸は彼女達を追いかけた。次に、エレナ・イアハートも先の衝突音になど興味ないとばかりにすたすたと歩き出す。
「え、エレナ!?」
 速足で校舎に向かう彼女を、暁 刹那が慌てて追う。特異者達がそれぞれ動き出し、校門前の人数が減っていく。
 その中で、綾瀬 智也エレナ・フォックスは頷き合い、倒された屍鬼達に近付いていった。2人は、彼等の遺体を調べる事で吸血鬼が廃校舎に屍鬼を集めた理由が分かるのではと考えていた。
「この顔は……」
 行方不明者達の写真を取り出し、智也は屍鬼の面相と照合していく。何枚か順に見たところで、写真を繰る手が止まる。垢抜けない少年の写真と屍鬼の顔は、笑顔と死顔という違いはあるものの、同一人物と考えて間違いないだろう。
 智也は写真を裏返す。そこには、この廃校舎とは『違う学校名』と学年、クラス、少年の名前が書かれていた。
「この学校の生徒じゃないのか……いや、そうとも限らないな」
 写真に書かれているのは、少年が行方不明になった時に所属していた学校だ。その前に、この学校に所属していたという可能性は捨てきれない。
「生徒手帳を見つけたよ!」
 そう思っていたら、エレナがそう報告してくる。別の屍鬼を調べていた彼女は、汚れた小さな手帳を2冊持っていた。
「こっちが写真の裏にあった学校の手帳。こっちがこの学校の手帳ね。多分、元生徒だと思うわ」
「元生徒か……」
 少年の遺体に目を戻して黙考した智也は顔を上げ、シルベと、残っていた特異者達に対して言う。
「自分達は屍鬼の掃討に行きたいと思います。後はよろしくお願いします」
「うん。遺族の方々に届ける準備は私達でがんばるよ」
 サキス・クレアシオンがそう応えると、智也とエレナは頷いて校内へと走って行った。サキスとシルベ、柊 恭也金剛 誠医療の錬金術師雪月 風花を残し、特異者達は次々と校舎に向けて走っていく。ソフィア・ルーセントへクセ・ジクムントも、校舎に足を向ける。
 ソフィアの後を追いながら、ヘクセは思った。
(エフカたんの協力依頼とはいえ、少し生臭い仕事だな。まあ、良くも悪くもソフィアたんはそういったことに関しては気にしないから、一先ず安心といえるが……。何はともあれ、直ぐに片付けてしまおう)

「えいっ、えいっ、えいっ!」
 その頃エフカは、錬成で作った硝子の刃で残った屍鬼数体を攻撃していた。なるべく少ない数の硝子で仕留めていき、最後の1体が倒れたところで横からシルベの声が聞こえた。
「さて、そろそろこっちも作業を始めようか。エフカちゃん、だっけ? 校舎に行って、皆が倒した死体を、こっちに持ってきてくれるかな」
「え……」
 少女はシルベを見て絶句した。
「わ……私がですか!?」
「うん、人手がないから。錬金術で台車作って運んできて。うちの運転手にも手伝わせるからさ」
 ニコニコ顔でシルベが言うと、トラックの運転手達がうぇーと声を上げる。
「人手がないから」
 もう一度シルベが言う。正しく言うと、アクションパートに『屍鬼を運ぶ』が無かったからなのだが。
「わ……分かりました……」
 校門前で動かなくなった屍鬼達を見てものすごく嫌そうにしながらも、エフカは校舎へと向かっていった。
「君達も」
 シルベは恭也達にもそう言って、彼等もまたひとまず校舎に入っていった。
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