三千界のアバター

【フェルーメラント】オールドスケール

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【フェルーメラント】オールドスケール
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【一 氷に閉ざされた灰色の世界】

 これまでにゴダムの小世界フェルーメラントに開いたゲートの数は、決して少なくはない。
 だが、30年前という時間軸で開いたのは、今回が初めてである。
 しかも開通した先は人類と敵対する精働機の一派ジェクステンが支配する極寒の地、グレイスデール氷低域
 更に事前に得られた情報では、別の小世界餓鬼講から持ち出した特殊な魔器を破壊すべく、岩淵 耕三(いわぶち こうぞう)がこの30年前のグレイスデール氷低域に姿を現したということも分かっていた。
 この30年前の世界で、一体何が始まろうとしているのか。
 特異者達は緊張の面持ちで、氷雪に覆い尽くされた灰色の世界に足を踏み入れた。


     * * *


 ホライゾンアカデミー製の最新型可変式ムーバルゴーレム(TMG)『アルゼラン』に搭乗した朔日 弥生は、初めて訪れるグレイスデール氷低域の殺風景なまでの冷たい風景に、心の底から身震いした。
 人間が生活してゆくには余りに過酷な環境ではあったが、事前に朔日 睦月から聞いていた話では、この地にはワーレングラツ王朝なる国家が存在しており、数百万、或いは数千万に及ぶ王朝民が生活している筈だという。
 本当にそれだけの数の人間達がこの死の世界に住居を構えているのだろうかと、弥生はアルゼランの操縦席内で小首を傾げていた。
 アルゼランの足元に佇む睦月も、弥生に説明はしてみたものの、随分と自信の無い様子で目の前に広がる無人の野を静かに眺めている。
 どこをどう見ても、生命の気配は微塵にも感じられなかった。
 だが少なくとも、弥生が尊敬する岩淵隊長は確実に、この世界のどこかに居る。
 それも決して遠くはない筈の場所に。
(お伝えしなければ……姫絢乃小隊長の一件を)
 弥生は胸元で小さく拳を握り締め、辛そうな表情で奥歯を噛んだ。
 何もそれだけが今回のフェルーメラント訪問の目的ではなかったのだが、弥生にとってはひとつの大きなミッションとして、両肩に重く圧し掛かっていた。
 一方、アルゼランの足元では睦月が早速、持参していた整備用工具の一部をバックパックから取り出そうとしていた。
「やれやれ……これは思った以上に冷えますね。防寒対策と対冷気措置は、早いうちに済ませておかないと」
 ひとりごちてから、睦月はアルゼランの脛を軽く叩いた。
 メガフライトモービル(MFM)形態に変形するように、との指示である。
 弥生はいわれるがままに操縦桿を操作し、MG形態からMFM形態へと機体を変形させた。
「リッグス女史からあまりややこしい改造はするなといわれていますので、操縦桿を手元からこれで覆って下さい」
 睦月が差し出したのは、寝袋を切り取って作成した保護防寒具である。
 弥生は操縦桿ごと、自身の両手をその防寒具で覆ってみせた。
 見た目程には操作性は悪くはない。
「どうですか? 手先がかじかんでしまっては、肝心な時に本領発揮が出来ませんからね」
 笑いながら睦月は、エアインテークと排気口に雪の塊が吸い込まれるのを防ぐ為のメッシュ素材を貼り付けにかかった。
 変形に支障をきたす為、大掛かりな改造は禁止されているのだが、この程度であれば問題は無い。
 取り付けには多少の時間を要するが、先行する他の特異者達からは然程に遅れることにはならないだろう。


     * * *


 同じくアルゼランに搭乗している青井 竜一は、ブラッガーHABを操縦するアリス・カニンガムと、ブリゼランに乗り込んでいる羅那魅 静姫らとMG一個小隊を編成し、ワーレングラツ王朝の領内に点在しているであろう集落を探して、早速移動を開始しようとしていた。
 ところがその傍らで、アルヤァーガ・シュヴァイルが持参していた支給品の無線機に、岩淵隊長からの無線連絡が入っていた。
『よぉ、お前さん達も来たのか』
「岩淵隊長殿……よく、分かりましたね」
 まさか先方から連絡を受けるとは思っていなかったアルヤァーガは、多少の戸惑いを隠せない。
 テスラ・プレンティスシュナトゥ・ヴェルセリオスも、目を白黒させて顔を見合わせていた。
『いや、実をいうと俺も全然分からなかったんだが、マーダーブレインなる御仁が、お前さん達の出現を感知したらしくてな』
 その名を聞いた瞬間、アルヤァーガの表情が凍り付いた。
 だがよくよく説明を聞いてみると、この30年前の世界に於ける精働機マーダーブレインは、少なくとも人間に味方する態度を見せているようであった。
 更に岩淵隊長はエリオンと名乗る女性とも協力し、奪われた魔器の奪還に向かう旨を伝えてきた。
 アルヤァーガは無線通信チャネルを、他の特異者達の通信機器に同期させる形で一斉報知した。
 その為、岩淵隊長のこれからの行動とマーダーブレインが味方として動いている現状も、全ての特異者が情報共有という形で知り得ることが出来た。
「いやしかし……まさかの展開だな」
 竜一は操縦席内で感嘆を禁じ得ない様子だったが、しかし彼自身の行動方針に変更は無い。
 幸い、岩淵隊長はゲート周辺に点在する集落の位置も教えてきてくれた。
『お兄様、アリス様……どちらの集落に、向かいましょうか?』
『あたしはMG初心者だから、なるべく近いところの方がありがたいかな』
 静姫とアリスからの通信を受けて、竜一はすぐさま向かう先を決めた。
「ここから2キロ東の集落だな」
 判断を下すや否や、竜一はアルゼランの向きを変えた。
 驚いたのは、テスラとシュナトゥだ。
 ふたりは竜一達も岩淵隊長と合流するものだとばかり思っていた。
「あれ……行かないの?」
 テスラの問いかけに、竜一が外部スピーカー越しに素っ気ない返事で応じた。
『悪いが、こっちは別行動だ。情報収集に努める』
 竜一の応えを受けて、テスラはまだ驚いている様子だったが、シュナトゥはすぐにいつもの落ち着いた表情に戻った。
 竜一の日頃の行動から、何となく理解するに至ったのだろう。
「わかった……気をつけて……」
 一緒に行動しないとなれば、下手に引き留めるのも時間の無駄であろう。シュナトゥは早々に頭を切り替え、アルヤァーガに視線を向けた。
「行こう、岩淵隊長殿のもとへ……既に他のMGも急行しているようだ」
 かくして竜一らMG一個小隊と、アルヤァーガ達支援歩兵組はそれぞれ異なる方面に向けて足を動かした。
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