三千界のアバター

死人の眠りを覚ます上喜撰

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死人の眠りを覚ます上喜撰
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 〈先手必勝〉

 上空にライフルを放つガラシャの傍で、ヘムは四方をテュポーンのビッグウォールに囲まれていた。
「く、来るなら来てみろよ……ガ、ガラシャに指1本……じゃねぇや、ヒレ1枚触れてみろ、そしたらこの俺が許さ……」
 ヘムが言い切るより早く、カジキ型のテュポーンが彼に突撃した。
「うわあああっ!」
 カジキの角が鍋の蓋を貫き、その先端はヘムの眼球の手前僅か数ミリの所でギリギリ止まる。
「ななな何だよコレ、ヒレじゃなくて角とか、聞いてねぇ!」
 すると、今度はアジに似た形のテュポーンが鍋の蓋を尾ヒレで打ち付け、蓋をぐにゃりとひしゃげさせた。
「ぎゃああっ! ヒレもやべぇし!」
 あまりの力の差と恐怖に尻餅をつくヘム。
 アジは容赦なく口を開け、牙をちらつかせてヘムを食いちぎろうとする。

 最早これまでか、とヘムはギュッと目を瞑り覚悟を決めたが……。
 予想した痛みをどこにも感じず、恐る恐る目を開けると、ヘムの前には見覚えのある背中があった。
「あんたは……ま、まさか!」
「久しぶりですね。まずは生き残りますよ」
 そう、ヘムの盾となり彼の危機を救ったのは北 信景だ。
 彼の傍には白根 雪乃秦 灯もいる。
「雪乃はヘムの傍に、それから灯は敵の動きを見て援護と誘導を!」
 信景は2人に素早く指示を出すと、颯爽と前線に飛び出していった。
「訳分かんねぇ、何で……?」
 唖然とするヘムに、灯が答える。
「君の仲間に土下座までされたら、断れないでしょ」
「えっ……土下座? あいつらが!?」
「そう。こっちは周りの視線が痛いの何のって……あんなの、体の良い脅迫だよね」
 灯はやれやれと言った様子だが、その口調には不思議と棘はない。
「ねぇ、前につるんでた仲間とは別れたの?」
「いや、BCのメンバーはずっと同じだけど……」
「ふぅん……それじゃ、キミと一緒で変わったのかな? 前は誰かの為に頭を下げるような連中には見えなかったけど」

 灯がヘムを適当に冷やかしていると、
「俺たちもいるぜ!」
 と迅雷 敦也が明るい顔で挨拶代わりにヘムの背中を勢いよく叩いた。
「話はヘム殿の仲間から聞いてるぜ、こいつら全部ブッ倒して、ガラシャ殿と一緒に絶対無事に帰ろうぜ!」
「あ、あざっす! でも、どうしてわざわざ俺なんかの為に?」
「なぁヘム殿……」
 敦也は一転して真剣な表情で言葉を返す。
「ある意味、今が男を上げるチャンスだろ? ガラシャ殿に言いたい事、あるだろ?」
「……」
 ヘムの目が泳いだ。
「ガラシャ殿に言いたい事があるなら、さっさと言っとけよ? モタモタしてると好機を逃すぜ? ……俺も最近さ、大切な人が出来たんだよ……俺は絶対に生きて帰ってやるぜ。だから、ヘム殿も……絶対死ぬんじゃねーぞ!」
 敦也は高らかにそう言うと【空中戦闘】で上空に飛翔し、テュポーンの壁を突き崩しに掛かった。

 敦也を地上からサポートするのは迅雷 剣太迅雷 火夜だ。
(「モタモタしてると好機を逃す」……兄者の経験談なのですかね?)
 剣太が敦也の言葉を気にしていると、上空から敦也の声が降ってくる。
「ケン君、どうした?」
「っ、いいえ、何でもないです! 兄者、援護は任せて下さい! 今回も俺の知謀、披露して差し上げます!」
「お兄ちゃん、火夜ちゃんもお手伝い頑張るよ~!」

「それじゃ、ワタシも……」
 と、涼しげな声と共にヘムの傍に来たのは、【銀狐の付け耳】をしたテレサ・ファルシエだ。
 ヘムの脳裏に、以前テレサがエレナの埋葬と供養をしてくれた時の記憶が蘇った。
「あ、あんたまで来てくれるなんて……」
 テレサはヘムの持つ何とも頼りない鉄パイプと鍋の蓋を見つめる。
「ねぇヘム、ワタシ最近は君の良い噂ばかり聞いていたよ。あの時の経験で、本当に変わったんだね。でも、そんな鉄パイプで……大丈夫なの?」
 テレサに情けない装備を指摘され、ヘムはうな垂れた。
「……だよな。こんなのでテュポーン叩こうとか、お前ふざけてんのかって感じだよな……」
「ちょっと貸してみて」
 テレサはヘムから鉄パイプを借りると、【バリアアップデート】を施しその強度を高める。
「これで、ちょっとやそっとじゃ折れたりしない筈」
「ほ、本当か? あざっす!」
 テレサはヘムに鉄パイプを手渡すと、空を見上げた。
 おびただしい数のテュポーンが敦也を待ち構えており、テレサの顔も自然と険しくなるが、彼女はそれを隠すように【無貌の面】を被り、【空中戦闘】で飛行状態になり上空高く浮上する。
 長い尻尾をたなびかせ、自身を落ち着かせようと深呼吸すると、彼女の隣にハーピーマスターも飛翔してきた。
 ハーピーマスターの目的は、攻撃手段を持たないテレサの護衛だ。

「みんな、先手必勝で行こうぜ!」
 敦也が開戦の合図のように叫ぶと、早速彼の前に大量のテュポーンが波のように横広がりに迫ってきた。
 それを見たテレサも手始めに【勇気の唄】でヘムを勇気づける。
「兄者、あえて中央突破でいきましょう! 左右から背後に回り込ませてから一気に叩くんです!」
 有り難い事に周辺には身を潜めやすい瓦礫が散在している。
 剣太はそれらに隠れながら、敵の配置と動きが敦也の攻撃によってどう変化するか【コールドリーディング】で予測し、上空の敦也に伝えた。
「分かったぜ!」
 右手に【ホーリーナイトダガー】、左手に【タクティカルナイフ】をそれぞれ逆手に持ち、二刀流で挑むのがブランクでの敦也の戦闘スタイルだ。
 敦也はピーターパンの如く素早く自在に飛び、2本のナイフを左、右と素早く逆袈裟に切り出して突破口を作る。
「どっからでもかかってきやがれだぜーっ!」
 すると、剣太の思惑どおり、敦也の攻撃を回避した左右のテュポーンが彼の背後に回り込んできた。
「兄者、スピンをかけて【アブソリュートアライブ】です! フィギアスケーターのように!」
 剣太は突拍子もないような指示を敦也に出したが、これは【ステイルメイト】で彼が見出したもの。
 敦也も剣太の言葉を信じ、その場で高速スピンしながら【アブソリュートアライブ】を繰り出した。
 すると、背後に回り込んだテュポーンも前方から更に迫るテュポーンも次々と切り刻まれ雨あられのように地面に降っていく。
 だが、テュポーンの数が減ったようにはとても見えない。
「兄者、ここからは持久戦ですよ!数匹固まっている所を主に斬っていきましょう!」
 剣太は近くで別の瓦礫に隠れている火夜にも声を掛けた。
「兄者の動きに、少々大きめの敵も数体接近しています。【ソラマメ】に兄者を援護させて、火夜は小ボスサイズのテュポーンを1体ずつ倒して下さい」
「分かったよ~!」
 上空の敦也は剣太の指示どおり数匹固まって向かってくるテュポーンを捌く。
「【ソラマメ】ちゃん、お願いね~!」
 火夜の使い魔である【ソラマメ】は単独の厄介な小物を攻撃し、敦也をフォローした。
 そこに、ひと回り体の大きいテュポーンが数体接近してきたが、これも剣太の読みどおりだ。
 火夜はファミリアの能力でそれら小ボスサイズのテュポーンの弱点を探ると、【ファストショット】で撃ち抜く。
「火夜ちゃんには見えてる、よ! バキューン♪」
 これで十分倒せるが、小ボス連中は数体まとめて敦也の更に上に向かい、彼を頭上からの速攻で倒そうと急降下してきた。
「駄目だよ~! そんな事させないんだから~!」
 火夜は【純白の魔銃】を上空に向け構え、【ファミリアカノーネ】を放つ。
 だが、「たかが雑魚されど雑魚」である。
 迅雷ファミリーの司令塔が剣太である事を本能的に察知したのか、敦也が討ち洩らしたテュポーンが何匹か瓦礫の陰にいる剣太を狙って突進した。
「コラーーーッ!」
 敦也は剣太に向かうテュポーンにけたたましい【叫声】を上げる。
 数匹が目を回しドサドサッと落下するが、まだしぶとく剣太を狙う奴もいる。
「自分の身ぐらい自分で守れるってのを雑魚共に見せてやりますよ!」
 剣太は【レイダースウェイ】で雑魚の突撃を難なくかわすと、【ウィップソード】を剣モードにして近距離から突いた。

 上空の敵は高い飛翔能力と強い連携を誇る迅雷ファミリーがしっかりと食い止めるが、地上にも彼らに負けず劣らず頼もしい面々が控えている。
 さて、ヘムと地上の特異者たちはどんな活躍を見せてくれるのだろうか……。

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