三千界のアバター

マッドカシハラ ~怒りのピヨロード~

リアクション公開中!

マッドカシハラ ~怒りのピヨロード~
リアクション
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9  Next Last

【一 いつの間にか複雑化】

 何故、こうなったのか。
 どこで、行き違ったのか。
 考えてみても、よく分からない。
 分かりはしないが、それでも女・樫原さん(年齢不詳)は逃げる。
 追われるからには逃げねばならぬ。
 それが、樫原さんの哲学だ。
 余人には全く、計り知れぬところであろうが。


     * * *


 コルリス王国の一地方都市デルフェッツァから南に下ること、十数キロメートル。
 そこに広がる草原地帯は、農家や馬車道沿いの旅籠が点在する、極めてのどかな緑一色の世界だ。
 ところが、そのうちの一本の馬車道を、ふたつの集団が駆け抜けてゆく。
 一方が追い、一方が追われる。
 見た目には極めてシンプルな構造だが、しかしその実、内情はいささか複雑だった。
 追われる側は、特異者の樫原さんを中心とするグループ。
 セリアンのアバターを纏い、直立歩行するカピバラの姿を取っている樫原さんは、サドル高の低い愛用の自転車を必死にこいで、後方から追いすがってくる集団――ピヨボーイズの追撃を必死にかわそうとしていた。
 血糊が黒く変色してべったりとこびりついているモーニングスターの打球部が、樫原さんの背中で激しく揺れる。
 相手がピヨボーイひとりであれば撃退してやるところであったが、集団ともなれば話は別だ。
 しかもピヨボーイズには、どうやら仲間が居るらしい。それも、決して少なくない特異者達だ。
 一方、樫原さんにも味方してくれる特異者は数名居たが、その人数差は如何ともし難い。
 というのも、ピヨボーイズに味方する特異者の数は、樫原さんに味方する特異者の、実に三倍は居ようかという戦力の開きがあったのだ。
 これでは到底、勝負にならない。
 三十六計逃げるに如かず。
 樫原さんが迷わず逃亡を選んだのには、ちゃんとした理由があったのだ。

 樫原さん御一行が通過していった、ぬかるんだ馬車道の一角。
 そこに未雨・カグラが、一旦止まらないと殺すぞ、といわんばかりの凄まじい殺気を帯びて、仁王立ちになっていた。
「ピヨボーイズの皆さん、ちょっと待ちなはれな」
 兎に角一度、ピヨボーイズを足止めし、樫原さんだけでなく、ピヨボーイズにも過失があることを認めさせた上で話し合いに持ち込もうというのが、未雨の作戦だった。
 ところが、未雨の策は全くの不発に終わる。
 話し合いにならない状況を、他の特異者達が作り出してしまったからだ。
「邪魔をするなーッ! 退けーッ!」
 今回、犬のおまわりさんに扮してピヨボーイズに味方し、樫原さんを追撃することに専念しているウォークス・マーグヌムの怒涛の勢いが、道のど真ん中に立ちふさがる未雨を呑み込もうとしていた。
 ウォークスひとりではなく、更に戦象に跨った弥久 佳宵と、ブロンズドラゴン姿で滑空する雨月 碧玉斎が左右に展開し、とてもではないが、未雨ひとりの手に負える状況ではなかった。
「そこの自転車のセリアンッ! 自転車を右に寄せて停まりなさいッ!」
 佳宵が、未雨の姿など視界に入らぬという勢いで戦象を一気に突撃させてくる。
 これには流石の未雨も、躊躇せざるを得ない。
 しかも、この複雑な状況を作り出しているのは、ピヨボーイズに味方する特異者だけではない。
 樫原さんを援護する側にも、問題があった。
 例えば、シン・ヴィンセント
 彼は樫原さんに味方するというよりも、新しいピヨ椅子を得る為に、ピヨボーイのひとりを拉致しようと考えていた。
「丁度良い……今使っているピヨ椅子がへたってきたので、新しいのが一匹、欲しかったんですよ……」
 シンのような手合いが居た為、当初はシンプルな逃走劇だった筈が、気が付けば妙に複雑化してしまっているということも多々ある。
 先手必勝とばかりに広範囲攻撃を仕掛け、そこへ味方の特異者がとどめを刺せば問題無い、というのがシンのプランであったが、生憎ながら、そもそもシンの意図通りに動いてくれる特異者など、最初からひとりも居なかった。
「お主ら、ピヨピヨいっとらんで、鳥なら鳥らしく、飛んで追い掛けんかッ!」
 碧玉斎が起こした風に乗る形で、一部のピヨボーイが物凄い勢いで宙に舞った。
 シンは自分が安全な上空に居ることを幸いに、諸々の策を用いてピヨ捕獲を目論んでいたが、まさかそのピヨボーイズが一斉に滑空して襲いかかってこようとは。
 基本的に、何の障害物も無い上空は、却って目立つ。
 地上で対空砲火を用意しているピヨボーイズ側にすれば、撃ち落としてくれといっているようなものだ。
 勿論、シンとて色々考えて防御策を揃えていたが、相手がそれらの防御策を上回る対空砲火を用意していたらどうなるのか――その辺りの考慮が幾分、不足がちであったのは否めない。
 そしてピヨボーイズ側の最大の対空砲火とは即ち、空飛ぶピヨ達であろう。
 間の悪いことにシンは、ピヨボーイズの戦闘力を見誤っていた。
 ピヨボーイズは、あの樫原さんでさえ逃げ出す程の集団戦闘力を誇る。そんな彼らが、雪崩の如き勢いで襲いかかってくれば、どうなるか。
 到底、シンひとりの対応力では捌ける筈も無かった。

「これは……今回は見送りにせざるを得ませんね」
 ここまでガチな反撃に遭うと、シンでなくとも興ざめしてしまうだろう。
 仕方が無いとばかりに諦め、肩を竦めつつ舞台から去るシン。
 これで、ただでさえ少ない樫原さん側の支援者がひとり、早々に姿を消した。
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9  Next Last