三千界のアバター

ユグドラシル

凛冽を往く

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1 連絡船ナンドル・レオンハルト号

 ランベルトとブルクハルト。
 二つの樹冠都市はいくつかの葉からなる小国家だが、いずれも貧しく、軍はおろか領主でさえも、きちんとしたロングシップを持っていないありさまであった。
 そのため、二つの国を隔てる長い空には、連絡船がただ一隻、両国の共同出資のもとに通されていた。
 古ぼけた意匠を船首にいただき、あちこちに修理の跡が見て取れる、そのボロ船こそ、連絡船ナンドル・レオンハルト号だった。

 老齢だが気のいい船長に事情を話し、船室をひとつ借りた特異者たちは、ブルクハルトからの返書を持った密使を、そこへかくまうことにした。
「眺めているぶんにはただのボロ船でも、実際に乗ってみると――」
「快適でしょう。この船の整備は、国費をかけた大事業ですから」
 アルヤァーガ・シュヴァイルは密使の言葉にうなずき、丸窓越しの茫洋とした寒空を見つめた。厚く垂れこめる雲は、今にも雪が降りそうだった。
「船内に、怪しい気配はありませんでした。武器を持っているのも、ボクたちと船員だけのようです」
 しばらくすると、見回りを終え、人払いを済ませた白野 直也が船室に戻ってきた。水城 頼斗の姿が見当たらないが、彼の持つ巨屠槍は開けた場所でこそ本領を発揮する。甲板上で敵襲に備えているのだろう。
 だがアルヤァーガのガンカメラが捉えたのは、上でなくすぐ外に移る人影であり、それはつまり、窓越しに船室の中を覗く乙町 空の姿だった。
「敵襲です、高速小型船複数!」
「ヴァイキングですか!?」
「おそらく! 一分以内に接舷されます!」
 空中を哨戒していた空は、船底から接近する舟の群れをいち早く察知し、一人では倒しきれないことを冷静に判断し、味方に伝えることで備えるための時間を稼いだのだ。
「こうなっては、船室の中にいたほうが、退路を塞がれるのでは――」
 そう直也が言った直後、空が直下からの炎弾を受け、大きく弾かれた。それとともに爆発した炎弾が、船室の壁に大きな横穴を撃ち開いてしまった。
 空いた穴から密使を庇いながら、アルヤァーガと直也は船室を出て、廊下を駆けた。
 敵には、騎乗したエインヘリアルがいるのだ。船体が大きく揺れ、甲板から巨大な地鳴りが響く。
 彼らが甲板へ急ぐと、敵のエインヘリアルが、グリトニルの黄金鎧に身を包んだ空と、ドッグファイトめいた空中戦を繰り広げていた。
「竜を相手に、手加減はできませんから……!」
「空を飛べるからって――!」
 空は、リンドヴルムの口から放たれる炎弾を、大盾のルーンで弾き飛ばしながら、矢を節制のダヌルにつがえた。後ろにつかれようとも、彼女の広角視野は攻撃を見切りながらの飛翔を可とし、節制のガントレットの力は敵の死角へ向かって矢の軌道を複雑に湾曲させる。敵は避けながらも追いすがるが、空はさらに矢を放ち、追い打ちをかけていく。
 敵のリンドヴルムが、躱すほどに増えていく矢に耐えきれず翼を撃ち抜かれると、エインヘリアルはたまらず落下していく竜から跳躍し、ナンドル・レオンハルト号の甲板に着地をした。
「お願いします!」
「さて、ひと仕事といきましょうか……!」
 空に応じたのは、ホライゾンナイフを携えた直也だ。彼は大剣を構えたエインヘリアルに向かって駆けていくと、藍銅のネックレスの力を解放した。一直線に水の弾が打ち出され、大剣のエインヘリアルめがけて飛んで行く。
 水弾をとっさに剣で防ぎ、あるいは身をかわしたエインヘリアルは、その隙めがけて飛び込んできた、直也のナイフを鎧の硬い部分で受けた。
 だが、そこまで読み切っていた直也は、さらに空いた側面へ鋭く蹴りを叩き込む。たまらず昏倒したエインヘリアルの急所に、すばやくナイフを滑らせると、直也は敵を船の外へと蹴り落とした。
 しかし直也が甲板を顧みると、ヴァイキングの小舟が、すでにいくつも接舷しており、船員たちと乱戦の様相を呈していた。
 その白兵戦の中、アルヤァーガは、クロニカマーカーによって威力を増したルーンを放ち、ヴァイキングたちを次々と昏倒させて乗客たちを守っていた。
「雑魚が! 頭数揃えりゃあいいってもんじゃねえぞッ!」
 さらに近づくヴァイキングも、空と頼人が次々に打ちたおし、徐々に敵の士気は下がりつつあった。このまま押しきって撃退できるかと思われたが、しかし、船内を駆けあがり、一人の大男が現れたとたん、彼らは勢いを取り戻し、攻勢に出始めたのだ。
「てめえら、間抜けたツラぁしてんじゃあねえぞ!!」
 大男が雄叫びを上げ、手に持った戦斧の石突で甲板を叩くと、それに応えて鬨の声が上がり、ヴァイキングたちの攻めの手が強まった。あの大男は、このヴァイキングの頭目なのだと、誰もが容易に想像することができた。
「なるほど。そういう話なら……!」
 アルヤァーガが大男に向かって光束のルーンを撃ち放つ。だが大男は傷に血をにじませながらも、それに怯むことなくアルヤァーガに向かって突撃を繰り出した。
「ベルセルクかッ!」
 戦斧を振りかぶった大男に向かって、駆けこんできた頼人が巨屠槍 -蒼龍-をかち合わせた。ベルセルクの剛力を、エインヘリアルの巨人殺しがせき止める。
 さらに、ぶつかり合う殺気の間を縫って、空が矢を放ち、敵の腕へと深く打ちこんだ。怯んだ大男の戦斧を頼人が押し返し、よろめいた隙をついて、直也の藍胴のネックレスとアルヤァーガの光束のルーンがその手に攻撃を浴びせかけた。
 そうして、敵がたまらず武器を取り落としたところで、直也がさらに身をかがめてナイフで足許を刈った。倒れかかる大男に、アルヤァーガと頼人が駆け寄り、すぐさま手足を縛って固定する。
 もはや勝ち目はないと悟り、その様を見届けたヴァイキングたちは、船員の追い打ちをかわしながら、次々と小舟に乗り込み、はやばやと退散してしまった。
「離しやがれ、この野郎ッ!」
 頼人とアルヤァーガに拘束されたヴァイキングの頭目を見て、空は、見覚えがあるかどうかを密使に問うた。密使は頷いた。
「我が国ランベルトと、ヴェステロス周囲の豊かな樹冠都市の間で、悪さをしていたヴァイキングの頭目です」
「ということは、コレもその一環で?」
 味方を失った頭目は、大人しく、空の問いに関して口を開いた。
「――何者かは知らねえ。黒ずくめの男だ。金を渡して、少し足を延ばせと言われた」
 その言葉に、誰もがランベルト内部の暗躍を疑った。
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