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船上のメリークリスマスバトル

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船上のメリークリスマスバトル
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【1】

 デルタシティの港に停泊している「シリウス」。
船上15階建ての最長部付近の上空では、大輪の花火が上がると同時に、爆音が繰り返し響き渡っていた。
 光の雫がこぼれ落ち、花火の赤色や青色は空を見上げている人々の顔を様々な色に変化させる。

(きれい……! 花火がすごく近くに見える……!)

 「シリウス」のVIP招待客として招かれていたにも関わらず、入口へと続く長蛇の列に並ばされていた砂原 秋良は、花火を見ながらやわらかな表情を浮かべる。
 【望遠付きカメラ】のファインダー越しに花火を捉えた秋良の黒いセミロングの髪にも、まばゆい光がいつくもの彩りを添えていた。
 ここからでも、連写モードを使えば花火の動きを取りこぼすことなくカメラに収めることができそうだ。
 ふと、ウエポンプロフェッサーからの通信をキャッチした秋良。

「どうかしましたか?」

 秘密基地から秋良にコンタクトを取ってきたウエポンプロフェッサーは、ほんの数分前まで秋良と一緒にいたヒート・ソウルの居場所を告げた。
  
「ん……ヒートが呼んでる? どの辺りですか?」

 指示を聞き漏らさないようにして、秋良は静かにその場を離れた。
 つい先ほど、ヒートは突然「喉が渇いた」と言って飲み物を探しに行ったのだが、どうやら秋良の元へ戻ろうとするうちに迷ってしまったらしい。

「なるほど、そういうことですか。え?……はいはい、分かりましたよ、借りはちゃんと返しますから。何かお土産を買って帰りますので、楽しみにしていてくださいね」

 秋良の口から「お土産」という単語が出たのを聞いて安心したのか、ウエポンプロフェッサーは、機嫌良く通信を終了させたようだった。
 一方、乗船入口のゲートでは、ヒートが白いコートを着た少女と何やら会話を交わしていた。

「一緒にゲートを通ってくれてありがとうございました!」
「礼には及ばない。無事に乗船できてよかったな、少女よ! しかし、招待券があっても未成年は1人で乗船できないとは……大型客船にしてはまったく融通がきかんな」

 少女は、更に何か言いたそうな目でヒートを見上げた。

「ん、どうした少女よ!」
「私、リナっていいます」
「リナか、いい名前だ! よろしくな!」
「はい! まさか、こんな所でヒーローに助けてもらえるなんて思わなくて。私、ずっと憧れてたんです」
「ほう……それは、ヒーローに会いたかったということか?」

 ヒートの問いかけに対し、リナは照れくさそうな顔で頷く。

「そうか、なら私と握手だ!」

 ヒートと握手をしてもらったリナは、ショルダーバッグの中から小さなノートを取り出す。

「えっと、サインもお願いしていいですか?」
「ああ、もちろん構わない!」

 リナから渡されたサインペンで、ヒートは流れるような筆跡を白いページに残してゆく。
 
「ふむ、そうだな……少し待ってくれ」

 ヒートはどこかへ連絡を取っているのか、「つながったか?」とリナではない誰かに話しかける。
 ほどなくして、ゲートを通り抜けて来た秋良が二人の前へとやって来た。

「おお、来たか秋良!」
「ここにいたんですか、探しましたよヒート」
「さっ、砂原秋良さんだっっ!!」

 【名声(デルタシティ)】の効果もあるのだろうか、出会う前からリナに名前を知られていた秋良は、少しだけ照れくさくなってしまう。
 
「……私、何だかすごいキラキラした目で彼女に見られてますね?」
「秋良も有名になったもんだな!」
「だといいんですが。さっきウェポンプロフェッサーが「船に乗れなくて困ってる子がいる」と言っていたのは、この少女ですか?」
「ああ、だが私と一緒に乗船したからもう解決済みだ。というわけで、リナと一緒に写真を撮ってくれ!」

 ぐいっとリナの肩を寄せて、ヒートはキメのポーズを見せる。

「どうせ撮るなら、私たち三人で一緒にというのは?」
「そうだな、じゃあ秋良と私とリナで撮ろう!」

 歓喜のあまり、硬直してしまっているリナをはさむ形で、ヒートと秋良がポーズを決める。

「あ、私としたことが。これではシャッターを押す人がいませんねぇ」
「ん~、そうだな。あ、ちょっとすまないがそこの君、写真を撮ってくれないか!」

 近くを通りかかった男性に声をかけたヒートは、彼の顔を見るなり目を丸くする。
 ロウレス・ストレガだった。

「よう。こんな所でファンサービスか? ご苦労だな」

 ヒートと秋良の間でカチコチになっているリナの三人を撮影したロウレスは、秋良にカメラを渡した。
 
「ロウレスさんも一緒に撮りましょう!」
「なんで俺が?」
「わ、私からもぜひお願いしますっっ」

 リナに言われ、断る理由もなかったロウレスは「やれやれ」とため息をついて、リナとの撮影を承諾した。
 
「本当にありがとうございました!」

 ロウレスは背中を向け、軽く手を上げる。
 三人にサインを書いてもらったリナは、ノートを大事そうに抱え込む。
 
「で、リナのお父さんは一体どこにいるのでしょうか?」
「私のお父さん、実は今日、仕事なんです」
「じゃあリナは、元々一人で船に乗ろうとしてたのか?」

 ヒートが優しそうな目で、リナを見つめる。
 ヒーローの目だ……そう思うだけで、リナは心から安堵することができた。

「はい。お父さん、ここで仕事してるから。仕事が終われば「シリウス」で一緒に過ごせるかなって思って」
「なるほど、そうことでしたか」
「よし、じゃあリナ、クリスマスプレゼント、というほどでもないが……」

 突然、ヒートがリナを抱きかかえる。
 
「ちょっと変わった空中散歩でもどうかな?」
「え、え、ええええーーーー!!!」
「ヒートったら……しょうがないですねぇ」
 
 リナと共に【ヒーローマント【フライトマント】】で空へと上がっていったヒート。
 秋良も【ジェットパック】で後を追う。

「どうして、ここまで親切にしてくれるんですか!?」
「ん?……ここまでするのはなぜかって? ヒーローは万能じゃない。だが、手の届く範囲には手を伸ばしたい、そう思うからだ」
「たまにはいいこと言いますねヒート」

 夜風になびく髪をかき上げて、秋良は【ヒーローマント【フライトマント】】に手を添えた。
 何度か上空を旋回してから、リナの父親がパティシエとして携わっているというスイーツバトルの特設キッチンへと向かう。
 
「あの白いコックコート! リナのお父さんでしょうか?」
「あ、そうかも!」
「……リナ」
「え?」
「メリークリスマス!」

 秋良とヒートが同時にそう言うと、リナはとびきりの笑顔を見せた。
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