三千界のアバター

ワンダーランド

その鳥籠は愛憎で織り上げられる

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その鳥籠は愛憎で織り上げられる
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第一章 白き塔までの道
 
 ワンダーランドに、夜が訪れる。
今夜は新月。木々の隙間から差し込む光は僅かな星明りのみで、ともすれば闇に呑まれて消えてしまいそうだ。
ただでさえ暗い森を歩くのは体力が消耗されるのに、ここ一帯は魔女・ゴーテルの支配下にある為、いつどこからジャバウォックが飛び出してくるか分からない状態。
当然、普通の人間が一歩でも踏み入れば命の保証などない。
 
 リチャードが「塔を目指す」との情報を掴んだジェノ・サリスは、他の特異者達よりも一足先に森へと向かった。
眼光鋭く暗闇を見つめ【ホライゾンホバーボード】で宙を飛翔するジェノ。
携えている武器は刃の類ではなく、ジャバウォックを捕らえるための【捕獲用バズーカ】だ。
(夜が終われば、ジャバウォックは消える。ワザワザ倒す必要もない)
他の特異者達がジャバウォックと戦う目的があるように、ジェノにはジェノの狙いがあるのだ。
 森を疾走するジェノは、やがて生い茂る木立を抜け、見晴らしの良い場所に出た。
(……あそこにいるのは……)
 ジェノのすぐ前方に、地面にしゃがみこむリチャード王子の背中が見えてくる。
あの様子では、敵に「狙ってくれ」と言わんばかりだ。
「ちッ……」
ジェノは、リチャードの無用心さに苛立たしげに舌打ちをした後、懐に持参した【イールのパイ】を掴む。
そして、一気にボードを加速させて、リチャードの元へ駆けつけた。
「なっ? だ、誰だ……!?」
「ギシァアァ……!」
 だが、驚いたリチャードが立ち上がった瞬間、茂みの奥からジャバウォックが雄叫びと共に飛び出してきた。
(三体か。問題ない)
数を瞬時に把握したジェノは、リチャードとジャバウォックの間に割って入ると、拳を突き上げて叫ぶ。
「お前らは、これが欲しいんだろう。イールのパイはここだ! 欲しければついて来い!」 
「……!」
 すると、ジャバウォックたちの目はジェノに釘付けになった。
【巻き込まれ体質】に加え、ジャバウォックの大好物まで持参しているジェノに抜かりはない。
後は自ら完璧な「囮」となり、必要があればジャバウォックを捕獲するつもりなのだ。
「あ、貴方は……?」
「そんな事はどうでもいい。俺がこいつらを引き付けている内に、この場を離れろ」
 ぼうっと立ち尽くすリチャードを厳しい声で怒鳴りつけると、ジェノは再びホライゾンバードで森を滑走。
餌に釣られた三体のジャバウォックも、ジェノの後を追いかけて走り出す。
ジェノはボードを巧みに操り、木々の合間を縫うように移動した。
その表情には、一縷の迷いもスキもない。 
背中に迫る気配は徐々に膨れ上がったが、それでもジェノは不敵に口元を吊り上げる仕草を見せた。
「ついて来られまい……!」
痺れを切らしたジャバウォックが、まとめて飛びかかろうとしても無駄――。
ボードで素早くターンを決めたジェノは、地形を生かし巧みにジャバウォックたちの背後へ回り込んだのだ。
「破ッ」
「ギャ……ッ?」
後ろを取ったのち【捕獲用バズーカ】を放てば、ジャバウォック達は文字通り一網打尽となった。
 動きさえ封じてしまえば、わざわざ倒す手間も省ける。
そして、囮として自分が森を動くほど、仲間の特異者やリチャードが襲われるリスクを減らす事に繋がるのだ。
敢えて単独で動くのも、ジェノの決意の表れである。
しかし、三体捕縛したとは言え、未だ森のそこここから殺気立つジャバウォックの気配が感じられた。
網の中で暴れるジャバウォックを見下ろし、額に滲んだ汗を拭ったジェノは、再びボードの上へ足をかける。
(俺が狩られるのが先か、夜明けのタイムリミットが先か……。いずれにせよ、今宵は追いかけっこに付き合ってもらおうか)
 ジェノは、森の西方へとボードを飛翔させる。
リチャード達が向かう東の泉とは反対の方向へ――少しでも時間を稼ぎ、障害となるジャバウォックの数を減らすために。

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